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東京の洋服屋で働いていた頃、たまに来るお客さんで神田さんという人がいた。


神田さんは上下汚いスウェット姿で来店し、店員一人を捕まえてはずっと買い物に付き合わせる人だった。


俺も接客したことがあるのだが、適当な説明をすると神田さんはそれに敏感で、「あんた、適当なこと言うんじゃないわよ！」
と、説教されるのだ。

そして神田さんは「このカシミヤ安物だけど私に合うかしら？」とか、マフラーを褒めると「あんたなかなかセンスあるわよ」とか、自分のおしゃれに関してはとてもこだわるタイプの人。


上下汚いスウェットでくるくせにそのへんは詳しくてこだわりが強い人だった。


あまりに自由方便なその性格は服を羽織って試着し、知らないお客さんに「あんた、これ似合うと思う？」と話しかけたりして周りに気を使わせたり

試着室で服を脱いでパンツいっちょのまま、試着する服を取りに行ったりして店員を慌てさせる破天荒な行動ばかり。


いつも髪は寝癖。
中年太りで年齢は50代始め位の神田さんは、

イノシシみたいなオカマのおっさんだった。

声も大きくて、見た目がただの汚いおっさんなもんだから、喋り始めたときのパンチ力は半端じゃなかった。
(長い鼻毛が両方の鼻の穴から出ていたので、イノシシみたいなおっさんと例えさせてもらいました)

来店して、汚い上下のスウェットで売り場をくねくね歩く姿に、店員みんなが緊張していたことを思い出す。


何を言いたいかというと、つまり、



人は見た目じゃないということを言いたかっただけです。